小さな家のこだわり

家をつくろうと思った人がだれでも最初に考えるいくつかのファクターの中の一つは、そのサイズだろう。一般に大きな家はいともたやすく「豪邸」と呼ばれることが多く、確かに家の大小は一つの価値を測る物差しなのかもしれない。しかし、私自身はどんなサイズの家にも様々なバリューやメリットが必ず存在すると思っている。それは、良い家かどうかを決定づけるのが大きさやデザインや素材や性能といったハードウェアとしての「住宅」でなく、そこに住まう人の「住まい方」「暮らし方」、ひいては「生き方」だと考えるからだ。

私自身、様々な家の設計を依頼されるが、好ましいと思うのは、そのサイズ感が施主のライフスタイルに実にしっくりくるというようなケースである。この「サイズ感」というのは「サイズ」に対する「感覚」なので、直接大小には関わらない。誰だって自分のサイズに合った服を身につける方が客観的に良く見えるし、第一着ている本人が快適だ。家もそれと同様のことが言える。大きな家がフィットする暮らし方もあれば、小さな家に最高の居心地を見出す日々のあり方というものもある。要は、どれだけ自分にとって好ましく、かつ心地よい家であるかが大切なのだ。だからこそ小さな家であってもそれが素晴らしい価値を伴うことは、私の経験でもよくあることである。

ここからは建築家としての実践的な話になるが、例えば坪数の少ない家を建てることになったとする。では、その小さな家を「狭い家」にしないためにはどうすればよいか。そこで、あれこれと知恵をしぼるわけであるが、まず一つ言えるのは、坪数が少ないなりの空間構成の作り方があるということだ。私は家の大小は単に床面積で決定付けられるものではなく、面積よりはむしろ容積が肝要なのだと考えている。つまり平面ではなく、高さ、採光を含めた空間の総体的な広がりというものが良い家をつくる時の重要なテーマになってくるのだ。そして、それを考慮した結果、 坪数という数字が示す印象とは違った、住みやすく心地よい家になる。 ところで私は常々、特に若い夫婦には小さな家がよく似合うと思っている。最初に無理な費用をかけることなく、大きくはなくともシンプルな家で暮らすこと。そしてその先の長い人生の中で様々な出来事を経験し、家族構成やライフスタイルなどの変化にともなって将来的な増改築などを含め、家のありようをその時々に適したものにしていくこと。そんな可変性及び柔軟性は、実は小さな家にこそ備わっているのではないだろうか。

家づくりとはその先の長い人生を設計することでもある。他と比較することのない自分らしく唯一無二の家、それこそがその人にとって良い家であるのは間違いなく、それは小さく、しかし上質な家だったりするのだ。