はじめに
個人住宅を中心とするアトリエ的な小事務所をかまえて設計を業とするようになってから二十年近くになる。この仕事を始めてから今日まで、設計をおこなうことに自分なりに苦しみつつも、いささかの経験と修練を積んだと思うが、それは、最低限の常識的な建築家としての修業の過程にすぎず、あえて他者に語れるほどのものではない。その間に仕事の場で考えたこと、あるいは、心に残る出来事をまとめることで、自身の今後の進むべき道標になるのではないかと考えた。
個人住宅を中心とするアトリエ的な小事務所をかまえて設計を業とするようになってから二十年近くになる。この仕事を始めてから今日まで、設計をおこなうことに自分なりに苦しみつつも、いささかの経験と修練を積んだと思うが、それは、最低限の常識的な建築家としての修業の過程にすぎず、あえて他者に語れるほどのものではない。その間に仕事の場で考えたこと、あるいは、心に残る出来事をまとめることで、自身の今後の進むべき道標になるのではないかと考えた。
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