住み心地

住み心地とはなんだろう。人生における一時の「ハレ」の瞬間ではなく、日常性、いわゆる生活そのものである「ケ」の時の極めて個人的で淡々とした時間を住まいでの住み心地というのであろう。

日々の生活において特別な日よりも、何も変わりのない、語るほどでもない普通の日々が圧倒的に多いと思う。ありふれた日々を楽しくする住まいとはどういうものか、、と問われたら、住宅設計者である私は、職業的経験上、楽しむためのアイデアを提供できるかもしれないが、暮らしの本質はそんなに簡単ではない。ハードとしての住宅をいくら楽しく、住み心地のよいものにしても、それを使いこなす住意識、ソフトが伴わなければ、本質は変わらない。日常生活を成り立たせているありふれた行為に愛着を持つから、住み心地のよさというものに敏感になり、時間とともに家と住人の一体感もしくは連帯感が生まれるのではないか。
住み心地のよい家をもったから、日々の生活が豊かになるのではなく、生活の中での日々の気づきや小さな喜びの積み重ねが家の住み心地をよくし、住み心地がよいから日々の生活や出来事が愛おしくなるのではなかろうか。

このように考えてみると、設計者として「住み心地よい家」にするために何ができるだろう。気を衒うことなく、無駄なものは省き、シンプルで身の丈にあった家にすればよいのではないか、という結論に至る。しかし、それだけでは何か足らない。大切なことは、施主の内面に向き合い、内なる心を理解する努力こそが、施主の期待に応えるもっとも近い道なのかもしれない。